〈一幕 直美〉 第4話 白日

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 言葉通りの意味ではない、さらなる責め苦の入り口なのだろうと覚悟する。もう何の言い逃れもできない。だが、私の予想とは裏腹に、続く言葉も口調も穏やかなものだった。 「香純が生きていた頃は、あの子を愛しているという自信が無かったわ。向き合うのが怖かった。……でも今、はっきりわかる。あの子をとても近くに感じるの」  そうソルトケースの横、ローテーブルの上に置かれたままになっていた写真に視線を落とす。 「この一か月、大変だったわ。継母を看て、家事をこなして、仕事をして、あなたと会って、その合間を縫ってさらにあなたを観察した。体力的にも精神的にもぎりぎりの淵だった」  溜息を一つ。その後に残るのはうっすらとした微笑み。 「でも、そんな私を支えてくれたのが香純だった。どうしようもない気持ちになった時、あの子は私に寄り添って応援してくれた」  その眼差しは、まぎれも無く、母が子を慈しむそれ。一呼吸置いて、香世子はひとりごちるように呟いた。 「……許すわ」  音は聞き取れた。しかし、意味が脳に浸透しない。香世子は膝をそろえ、手を置き、私に向き直り、繰り返す。 「あなたを、許すわ」 「……え?」     
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