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湿った瞳でまじまじと見つめるが、そこには冷笑も嘲笑も浮かんでいなかった。寂しげではあるが、どこか晴れ晴れとした表情。天気雪のこの空にも似た、神々しさと清冽さを感じさせるそれ。先ほどまでの激昂は、どこにも見当たらない。
「あなたの――あなたたちのお陰で、私たちは親子の絆を取り戻せたから」
呆然とする私に、香世子は微笑んだ。ずっと昔、そんな笑顔が欲しくて、香世子にたくさんの虫を目の前にぶら下げてやったことを思い出す。お椀にしのばせた虫、本当は笑い話になるはずだった。でも結果は惨憺たるもので、彼女の蒼白に染まった顔に、逆に嗜虐性をそそられてしまったのだった。香世子は続ける。
「美雪ちゃんとあなたのやりとりを見ていて、やっとわかったの。母娘のありようが」
――結局、今も昔も、私はあなたが羨ましかっただけなのね。
香世子は自嘲混じりに呟き、もう一度空を見上げた。
「許して、くれるの?」
許す、その言葉を口に上らせることすら躊躇した。ようやっとおずおずと発した問いに彼女は頷く。
許してもらおうなんて思ってもみなかった。行き場の無い『ごめんなさい』は、ただ罪悪感から逃げ出すための方便。それなのに、香世子、貴女は――
「ごめん。ごめんなさい……」
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