49人が本棚に入れています
本棚に追加
/400ページ
心の底から悔やんだ。再び溢れ出した涙が膝を濡らす。ローテーブル越し、私の肩にそっと触れてきた香世子の手は優しかった。その感触が、温かくて、切なくて、すまなくて、ますます涙を盛り上がらせる。
「私もごめんなさい。美雪ちゃんに手を出すなんて卑劣な真似をして。もう二度としない。誓うわ」
肯定も否定もできず、ぶんぶんと首を振る。貴女が謝ることなど無い。何一つ無いのだ。悪いのは全て私。そう叫ぶように告げれば、彼女は、あの日のことは偶然が重なった運の悪い出来事に過ぎないと言う。それよりも、二十年経って意図的に仕組んだ自分の方がひどいと。彼女はうなだれたまま続けた。
「……もし、私を許してくれるなら」
「許すわ。ううん、許すも許さないもない。貴女は何も悪くない……!」
嗚咽混じりの返答に、香世子は呆気にとられたふうに瞬き、それからためらいがちに、上目遣いに私を見る。
「もし本当に許してくれるなら。……私を信じてくれるなら。一つ、お願いがあるの」
図々しいのは承知だけど、と前置きして香世子は願いを口にした。
「時々でいいの。美雪ちゃんと遊ばせてくれない?」
我が子を喪った女の寂しげな影が過ぎる。想いを素直に表現できなかった母親。愛していたと実感した今だからこそ、余計に恋しいのだろう。同様に、好きな子に素直になれなかった私にはその気持ちが手に取るようにわかった。
最初のコメントを投稿しよう!