〈一幕 直美〉 第4話 白日

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 私と香世子、二人きりなら友達に戻るのは難しい。そもそも本当の意味で『友達』だったことなど一度だって無かったかもしれない。だけれど美雪を間に挟めば、それなりの関係を築ける気がした。きっとうまくいく。私達はやり直せる。友達になれる。春になればお花見に。夏になったら花火。秋には幼稚園の運動会を一緒に応援して、冬には三人でケーキを焼いてクリスマスを祝おう――雲間から光が射し込むように、明るい未来を垣間見る。  二十年、私たちはなんと遠回りをしたのだろう。だけど変わらない想いがあった、仰ぎ見た高台の城、夢に描いた主、舞い降りた少女。ずっと惹かれていた、あの日から、ずっと、ずっと、ずっと――  私は半泣きのていで、大きく頷く。 「きっと美雪も喜ぶ。あの子、貴女からもらった『白雪姫』が大好きだから」 「ありがとう」  香世子は安堵したように息を吐いた。  ――良かったわね、香純。あなたにもお友達ができるわね。  心底嬉しそうに顔をほころばせ、写真に手を伸ばす。だが、その指先は写真の上を通り過ぎ……その脇に立っていたソルトケースをむんずと掴んだ。 「美雪ちゃんと仲良くできるわよね、香純」  香世子は囁く。白い陶製のシンプルな小瓶を握り締めて。頬を寄せ、撫ぜて、口づけて。とても愛おしそうに、うっとりと。  ……でも、どうして、ソルトケース? 訝しんだその時。 「ママ?」  香世子が座るソファの背後、襖が開いた。  そこにはパジャマ姿、ウサギのぬいぐるみをひきずった美雪がいた。寝癖のついた髪、はれぼったい目、半開きの口。ずっと眠っていたのだろう、潤んだ瞳をぼうっとさまよわせる。 「ママ、おなかすいた」     
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