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ペタペタと足音を立ててリビングに入り込む。そして見知らぬ大人に気付いて、元々丸い目をさらに丸くした。
「こんにちは、美雪ちゃん。私はママのお友達なの。これから仲良くしてね」
香世子は背を屈め、美雪に目線を合わせて挨拶をした。そういえば、この二人は初対面になるのかもしれない。結局、美雪を連れ出したのは弥生であり、『Sun room』で美雪は眠っていたし、他の日はすれ違いになっていた。
美雪は不思議そうに香世子を見つめていたが、やがてこくりと頷く。
「ショートケーキ好きかしら? とっても美味しいケーキがあるの。食べない?」
美雪はもう一度こくりと頷く。
香世子はにっこりと笑い、自分の皿に残っていたショートケーキを切り分け、一切れ突き刺したフォークの切っ先を差し出した。
「はい、あーん」
香世子の声に促され、美雪は大きく口を開ける。
クリームの白、スポンジの黄色、挟まれた苺の紅。そしてたっぷりと振り掛けられたソルトケースの粉のきらきら……
ふいに。吹き上がるような怖気が背筋を駆け上がった。それは一瞬のうちに、一気に、一直線に頭蓋まで到達して――
唐突に悟る。その危険性を。
ソルトケース。純白の粉。腹を撫でた手。あの子をとても近くに感じるの――香世子。それは、まさか。
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