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美雪は唇を突き出してケーキを迎え入れようとする。
私はソファの対岸にいる香世子と美雪を凝視する。一瞬、香世子と目が合った。彼女は私を嗤う。それはとても満ち足りた笑顔。
……やめ
喉元まで出かかった声が凍りついた。
私は香世子を許すと言ってしまった。信じると頷いてしまった。止めてしまえば、全てが嘘になってしまう。全てが嘘になってしまえば、美雪に手を出さないとの誓いも破られる。どうやっても私は止められない。それを知っているからこその香世子の笑顔。
ようやく悟る。香世子が長い長い時間をかけて何をしようとしていたのか。私は原本をアレンジし、脚本を上書きした。だが、彼女は私が上書きした脚本に、さらに結末を書き加えたのだ。未来永劫、とけない呪いを。
窓の外は、静寂の天気雪。
部屋の中は、淡い白明。
仲睦まじいお妃と姫君のような二人。
私は此岸で身動きがとれない。
一瞬が、永遠にも引き伸ばされる。
そして、華奢なフォークが吸い込まれるように、美雪の紅い口に入り込み――
それは、あまりに甘くとろける白雪姫の接吻。
【一幕終】
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