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〈一幕 直美〉 第4話 白日
4-1
『白』には、甘く柔らかく芳しいイメージがまとわりつく。
お砂糖、ホイップクリーム、ババロア、メレンゲ、バニラ、ミルク、フリル、レース……
うっとりと、滑らかで、陶酔させられる、誘惑の色。
香世子はその色を具現したような少女だった。ひとりぼっち、孤独だからこその透明感。
クラスメイトも、通学班のメンバーも、大人だって気付いていない。彼女のその価値。崇高さ。純粋さ。知っているのは私だけ。
だから、他の誰にも立ち入られたくなかった。汚されたくなかった。侵されたくなかった。
――私と香世子、二人きりの世界を。
石段を駆け上がる。息を切らし、鼓動を打ち鳴らし、がむしゃらに手足を動かす。
だんだんと立ち上がってくる赤い鳥居。はやく、はやく、あともう一息――はやる気持ちが背中を押す。最後の一段を上りきれば、そこは小さな鎮守の森。澄んだ空気、濃い緑の匂いを胸いっぱいに吸い込み、私は心を落ち着かせた。
と、鼻先に何やら白いほこりのようなものがひっつく。かじかんだ指先でつまめば、それは音も無く溶け消えた。
……雪。
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