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〈一幕 直美〉 第3話 暗転
3-1
翌日、美雪は幼稚園を休んだ。
薄着で外にいたせいか、それとも精神的な何かが起因しているのか、三八度を超える高い熱が出た。だが、食欲はあるし、ぐずってもいないので、そう心配はないだろう。私は母に美雪の看病を頼むと、自家用車でショッピングセンターまで出かけた。
家族の誰かが風邪を引くと必要以上に買いすぎてしまう。ショッピングセンター内のドラッグストアで風邪薬と冷却シートだけ購入するつもりだったが、少し立ち寄ったスーパーでジュース、ヨーグルト、ゼリー、プリン、消化の良いお菓子と見る間にカゴの底が見えなくなってしまった。
青果売り場で、林檎や蜜柑などの果物を物色していると、行儀よく積み重ねられた大根が目に入った。白くつややかで、足というよりも女性の二の腕を連想させるそれ。葉は頭にほど近いところからばっさり切り取られている。私は少し考えて、その中から一本選び取りカゴに入れた。
会計を終え、両手にビニール袋をぶら下げ、だだっぴろい駐車場を歩く。午前中、まだ客足の少ないスーパーの駐車場は空いているというよりも、むしろ空漠としていた。乾いた風に、カサカサとビニール袋が音を立てる。
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