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チョコレート彗星
冷たい風が頬を撫でると、私はぶるる、と身震いをした。その年に買ってもらったもこもこのマフラーに鼻まで顔を埋めて、風がやむのを待つ。
県と県を分ける大きな川沿いにある、こんもりと盛りあがった丘。頂上には小さい神社があって、境内からは住宅地と夜空をいっぺんに覗くことができる。見晴らしのよいこの場所は、私たちの秘密の場所だった。
風がやんだので、改めて空を見上げる。紫のような青のような暗い色合いの中に、ぽつぽつと小さな光が瞬いている。本当は一面に星の海が広がっているのだけれど、足元からの町明かりがその光をかき消しているせいで、ここからは拝むことができない、らしい。だから今見えている星はよほど自己主張が激しく、強い意志を持った星なのだろうと私は思った。
「やーちゃん」
隣に立っていたその人は私の名を呼ぶと、空の一点を指さした。
「ほら、あれじゃないかな。彗星って」
彼女の指先にある星は、他のものと違い大きく、光の具合もぼやっとしている。曖昧な輪郭から、短いしっぽが伸びていた。
正直に言えば、私は拍子抜けしていた。
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