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七年に一度というだけあって、街中でもテレビでも彗星の話題はひっきりなしだった。加えて時期が時期だ。バレンタインの間際に現れたそれにチョコレート彗星というあだ名を付け、それに乗じて例年の割増で盛り上がっているスーパーやデパートのバレンタイン催事場。眼下の街はハロウィンやクリスマスのようにお祭り騒ぎだ。そんな大人たちの猛プッシュのせいで、私はどれだけすごいものが見られるのだろうと、期待値を高くしていたのだ。
しかし、実際に見る彗星は迫力に欠け、地味なものだった。街中で見るポスターでは空の端から端までを長いしっぽが繋いでいて、まるでドラゴンのように壮大であったが、実際はにょき、と遠慮がちに伸びているだけ。これではオタマジャクシと言った方が納得できる。
それでも隣の彼女は瞳を爛々と輝かせて、七年に一度のその現象を喜んでいた。
「わぁ、本当に箒みたいだね」
そう感想を述べる彼女の瞳には、まるで夜空の星が映りこんでいるようだった。地味なオタマジャクシも、彼女の目には美しい箒星に映っている。自分の瞳がくすんでいるようで、私は、きれいなものを映す彼女の目が羨ましかった。彗星の周期ほど歳の離れた彼女が、とても美しく見えた。
彼女が喜んだのなら、私は満足だった。それだけでも、ここに来た価値はある。私は静かに、彗星に感謝した。
その時のことは、そのくらいしか覚えていない。
なんせ七年も前のことだ。小学生だった私は高校生になるまでにいろんなことを覚えなくてはならなかったので、印象的なこと以外を断捨離する必要があった。
だからその時の会話を彼女に思い起こされても、それが本当に私の言葉だったのか、自信がない。
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