チョコレート彗星

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「星…」  私は人差し指をこめかみに当てて、七年前の記憶を掘り起こしていた。  夕暮れの教室、つい先ほどまで補習授業が行われていた私のクラスは、その時の賑わいをすっかり失くしていた。  私の前には、あれから七年の歳月を積み重ねた彼女がにこにこと微笑んでいる。何を嬉しそうに、と半ば呆れながら、私は記憶の掘削作業を続けた。 「覚えてないなぁ。本当にそんなこと言ったの?」 「言った言った。お星さまが欲しいって、確かに呟いたはずだよ」  呟き。そんな些細なことだったのか。 「よく覚えていたね。さすがの記憶力」  今のは皮肉のつもりだったが、彼女はますます嬉しそうに笑う。毒の通じない純真さは、知り合ったころから全く変わらない。私より多くの歳月を歩んでいるはずなのに、彼女はいつまでも無垢な少女のままのようだった。二人でいると、私の通う高校で教鞭を執っていることを、未だに忘れてしまう。 「星ねぇ。随分とスケールの大きいものを欲しがったね」私は頬杖をついて、黒板消しを持つ彼女の姿を眺めていた。 「自分で言ったことじゃんか」 「それが余計に信じられない。そもそも、どうしてそんな話になったわけ?」     
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