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マンションに帰り、いつものように夢の内容を打ち込む。
食事もそこそこに、風呂も済ませ、リビングに戻りスコッチをグラスに少し注ぐ。
甘味のある軽やかな香りに身をゆだねながら、今夜見るはずだった夢への想いを断ち切る。
部下が心配するほどなのだから、相当酷い外見なのだろう。
寝酒などする習慣はなかったが、すんなり眠りにつくために買ってきたスコッチを煽ると、喉に熱いものが通っていく感覚と共に徐々に思考が揺らぎ出す。
これなら何も考えずに、すぐに眠りにつけるだろう。
最後の一口を飲み干し、ふうーっと熱い息を吐き、グラスもそのままに寝室へと向かう。
ベッドに入る頃には、眠気も頂点に達していた。
念のため仰向けではなく横這いになる。いつもと違う態勢なら、夢の世界が遠ざかる気がしたからだ。
それから私は抗うことなく眠りの手に包まれて、意識がゆっくりと遠くなり、やがて途絶えた。
潮の匂いが微かに鼻先に届いた。そして、それは段々と濃くなっていく。
おかしい。私は普通に眠っているはずだ。いや、じゃあ、何故それを思考できる!?
身体がゆらゆらと揺れているようだ。
私は恐る恐る目を開けた。
眩しい光と共に、雲一つない、幾重にも重なった青が飛び込んできた。
私はいつも通り亀の甲羅の中にいた。
何故だ? 確実にいつもと違った眠りのはずだった。それが何故……。
私の狼狽も気にすることなく、亀は潜り始めた。
遠浅に広がる海底には、海面を通る陽光を浴びて美しく輝く珊瑚礁が果てなく見える。
亀はその中を、色とりどりのカラフルな小魚に交じって進んでいく。
最初は不安だったが、幾日も過ごすうちに、考えも楽天的になっていった。いつもと変わらず目覚めることができるはずだ。そう。アラームが鳴ってしまえば、日常へは戻れる。多少の目覚めの誤差など気にする必要はないだろう。実際戻れたんだし。今は夢の世界を楽しもう。
甘美な酔いが、私の思考を犯していった。
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