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ザクッ、ザクッと音が聞こえてきた。
「キャーッ!」
そして、女性の短い悲鳴もした。
いきなり羽交い締めにされて、右手を押さえつけられた。
「か、課長、な、何やってんですか!?」
ゆっくりと声の方に顔を向けると、部下のまるで得体の知れないものを見るような目と交わる。
「救急箱! 早く! それと救急車も!」
そんな誰かの声も、何か遠くに聞こえる。
部下は、私の右手から血の滴るボールペンをもぎ取り、左手の甲をハンカチで押さえた。
そちらに目をむけると、茶系のチェック柄の布地にどす黒い染みが広がっていくのが見える。
その染みは止まることなく、やがてハンカチから溢れて、床に落ちてゆっくりと広がっていった。
周りを見渡すと、皆が口々に何かを言っているようだが、聞こえてはこなかった。
慌ただしく動く部下達をぼんやりと見ていると、視界がぼやけ、今見ているもの上に映写機で投影されたように、海原にたゆたう亀の姿が重なった。
段々それが混じりあっていくように、視界が歪んでくる。
ぐるぐる回り、溶けるように消えたかと思うと、私の目には海原の亀しか見えてなかった。
「海へ……」
私の視界を暗闇が覆った。
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