彼へのプレゼント

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 私はチョコが好きだが愛しの彼はそうでもない。一昨年彼にチョコレートを持っていくと、半分お食べと言いながらそのほとんどを私が食べることになった。次の年にはビターチョコなら好いてくれると知ったが、それよりも香り高い紅茶とクッキーのほうが好きだとも知った。だから今年は、彼が時折眺めている紅茶店の、彼が好きな茶葉を詰め合わせたプレゼントボックスを作った。このお店は紅茶缶がとてもかわいい。きっと彼は、普段穏やかに細めている目を見開いてくれるだろう。驚かすためにラッピングは自分で用意したものを施し、私はこの日、バレンタインデーを待ちに待っていた。  雪の上をスキップしたい気持ちをこらえ、彼の家へ。今日はものすごく冷えたから、ブーツの下で雪がきゅっきゅ、と鳴いている。こんなことでも、彼に会えるというだけで心が弾んでしまう。踊る心の前に、寒さはなかったことになる。歌いだしたいのをこらえながら、ひたすら、転ばないように、大事な紙袋を抱えて進む。あの紺色の屋根にたくさん雪を積もらせたままにしているのが彼の家だ。彼はモノ作りに夢中になってしまうと家の外のことがおろそかになる。よくあることだ。二週間前、車庫に持って行こうとひとまず玄関先に置いていた段ボールのことを忘れ、気付けば猫に占領されているなんて状況に陥っていた。あの猫は結局どうなっただろう? 彼の家にはそこらじゅうに機材や作品があるから、家の中に入れるというのは考えにくい。私は猫が好きだから少し残念でもある。  インターホンを押す。彼が出てくる前に踏み固められた雪の地面をトントンとつま先で蹴った。靴裏の雪がパラパラ落ちる。鍵が開く音がした。彼がドアを開けて穏やかに笑う。 「いらっしゃい。待ってたよ」 「お待たせ、お邪魔します」
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