地点W

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地点W

 雪解けが始まった三月。  町にはちらりちらりと白い雪が舞って、冬の季節を覆っていた雲の合間から珍しく青空が見えていた。  さて、と僕は用意された朝食のパンを喉に落とし込み、学校指定のブレザーを羽織って学校に行く支度を済ませた。ハンガーラックに掛かったコートに手をかけ、もうすぐ春だしいいかと扉を出る。  気温は思っていたより寒い。それでも、風邪をひくほどではないと家に戻ることはなかった。  僕が歩き出そうとすると、隣の家からバタンッと大きな音がなって玄関の扉が開いた。  「おはようっ!」  息を切らした女の子、エマが髪を乱しながらそう言ってきた。僕は寝坊したんだなと思った。  エマは最近隣に引っ越して来た子だった。活発な性格で何事も前向き、後先考えない行動力がたまに傷だがその行動力は僕にとって尊敬する部分でもあった。  ちなみに幼く見える容姿から元気な女の子というイメージを持ちやすいが、たまに放たれる妖艶さは核兵器と同等の力を秘めている、と僕は思っている。  ともあれ、僕はエマの息が整うのを待って一緒に登校する。  他愛ない話を聞きながら登校していると、道端にあるパン屋さんからチリンチリンとベルがなった。どうやらパンが焼けたようだ。エマの足が止まった。  僕は「朝ご飯食べてきてないの?」と声を掛けようかと思ったが、言うより先にエマの足が動いていた。ひとり置いていかれた僕はため息をついてエマの後を追いかける。  パン屋さんに入ると店内に充満した香ばしい香りが鼻孔をくすぐった。朝食を食べたはずの僕までお腹が減ってくる。  先に店内に入っていたエマは出来立てのホットドッグを見て、「これをください」と言っていた。レジに立っていた機械はホットドッグを食べやすい袋に包み、エマに代金を要求した。  エマはお金を取り出さず、なぜか僕の方を見た。  つまり、そういうことのようだ。  僕は項垂れて、機械にホットドッグの代金を支払った。
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