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スクーターを止め、ゴーグルを外す。彼女は僕の腰にまわしていた腕をパッと離し、舞うようにスクーターから降りた。
本来であれば許されない二人乗りだけど、咎めるものはいない。
エンジンを止めると、気味の悪い静寂が訪れた。
なんの異変もない街。
いっそのこと、血痕なりクレーターなりの異常があったほうが気が休まる。この状況を説明できるから。
「あそこ、お店がある!」
「うん。入ってみよう」
電気はまだ通っていて、照明は空っぽになった寒々しい商品棚を照らしている。
幸いにも日用品の類は歯抜けで残っていたので、入り用のものを無造作にバッグに詰め込んだ。
「あったよ、あった!」
声が響いた食品コーナーに向かうと、土下座のような体勢の彼女がいた。何をしているのかと思えば、商品棚の奥に手を伸ばしている。
その手が掴み取ってきたのは、ホットドッグだった。
「……食べられるかな」
当然、賞味期限は過ぎているけれど、今はマフラーを巻く季節だから足もさほど早くないだろう。選り好みをしている状況でもない。
「一応、熱を通してから試してみよう」
レジの奥にあった電子レンジにホットドッグを温めていると、彼女はどこからか包み紙を持ってきた。
「それ、どうするの?」
「気分だけでもと思って。手作りのお店で買ったみたいでしょ?」
そう言うと、温め終えたホットドッグを無造作に包んだ。
「せっかくの快晴なので、外を歩きながら食べることにします。それがホットドッグを食べるときの正しい作法です」
「はいはい、仰せのままに」
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