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180 ヤマトへ、出陣
「どうなさったんですか。それ」
「タクシーに乗っていた時、追突されてさ……イタタタ」
「マチコ先生。今日は僕、帰りますよ」
中島公園一丁目、猪熊家。首にコルセットを巻いた猪熊を伊吹は心配そうに見つめた。
「いいのよ。アンタの勉強を見るくらいは平気だから、でもさ、久美の方が」
「久美さんも鞭打ちですか?まあ、それは大変だわ」
夕刻。仕事から帰ってきた小花は、伊吹の勉強の手伝いに来いと呼びだされ、猪熊の代わりに冷たい麦茶を出した。首を痛めた猪熊は苦しそうだった。
「はいどうぞ。これは猪熊さんの分、そうか、ストローが無いと飲めませんね」
「私の事はいいから、ねえ、伊吹君はその問題を解いていなさい。それよりも久美なんだよ」
自分が誘ったカラオケの帰りの追突事故なので、猪熊は彼女のケガに責任を感じていた。
「それにさ。週末にほら、久美は拳悟の大会で奈良県に行く予定だろう。私も応援でいくつもりだったけど、この首じゃ無理さ」
「そうでしょうね。麦茶も飲めないんですもの」
「それは関係ないけどさ、でも久美は行くって言うんだよ」
猪熊は小花の彼氏の姫野に、医療関係者としていい方法は無いか聞いてほしいと言った。
「まあ、姫野さんには聞きますが、久美さんに介助の人は?」
「いないんだよ。拳悟だけが選ばれていくしさ。久美の親も年だし」
「……私が参りましょうか?」
「え?小花さんが」
うんと小花は伊吹に頷いた。
「飛行機のチケットは取ってあるんですよね。それを変更して下さいませ。私が久美さんと一緒に奈良県に参りますわ」
「いいのかい。でも仕事は?」
「有給休暇があるし、週末でしたら平気です、それに同じ日に奈良で用事ができたんです」
「フフフ。やっぱり行くんですね。姫野さんのために」
何の話か良く分からない猪熊だったが、小花が同行してくれると聞いて、ホッとしていた。
そして小花はこの足で、久美に話しに言った。
「こんばんは。久美さーん」
「おっす。なした小花っち。母さんは今、ロボットだし」
玄関に出てきた裸足の拳悟は風呂上がりなのか、妙にいい匂いがした。
「そんな言い方はいけないわ、拳悟さん。あのね、私、猪熊さんの代わりに奈良に行く事にしたの」
「マジで?母さん。小花っちが行ってくれるって!おい!聞いているのかよ!」
「……拳悟さん。久美さんは動けないのよ、優しくして」
「そ、そうか。あのな」
拳悟の説明によると、奈良には単身赴任中の父親が待っているので、現地にいる間は久美の面倒は彼が看てくれると話した。
「わかりました。当日は私が荷物も持ちますので、久美さんはお薬とか用意して下さいね……そうか、今夜の食事も大変ね。拳悟さん、私、大量に餃子を作って冷凍してあるんですけど、お食べになる?」
「食う!」
「待っていてね、あ、でも拳悟さん。久美さんに優しくしてね。約束よ」
「約束する!」
こうして小花は急いで餃子を大量に焼き、久美の家に届けた。この時はさすがに久美も玄関に出てきて、彼女に礼を言った。
その後、小花は久美と打ち合わせをして当日を迎えた。
「すみません、空港まで送ってもらって」
「構いません。どうせドライブですから……鈴子。空港に着いたら客室乗務員に話して、優先で乗せて貰えよ」
運転席の姫野の言葉に小花は頷いた。
「はい。奈良に到着しても全ての場所で特別扱いをお願いしますわ」
「すみません……本当に」
本日は痛み止めを飲んできた久美だったが、やはり首が痛いようでコルセットの首を動かさないようにしていた。
拳悟はすでに大会関係者と現地に行っているため、車を運転していた姫野は二人を新千歳空港で降ろした。
「小花ちゃんの荷物はそれだけなの?」
「はい。夏の服は少ないですもの」
久美の荷物を車から降ろす小花は、小さなリュックサックだけだった。
「では姫野さん。行ってきます」
「……ああ、おい、鈴子。髪に何か付いているぞ?取ってやるからこっちに来い」
姫野が何をしようとしたのか察知した久美は遠慮して二人に背を向けた。そしてちょっと待ってから、身体全体で振り向くとそこには顔を真っ赤にした小花が恥ずかしそうにしていた。
「では久美さん!気を付けて」
「ありがとう、姫野君!さ、行きますか。小花ちゃん、マジでよろしく」
「お任せ下さい!姫野さん、行ってくるわね」
うんと頷く姫野に送られた久美と小花はこうして決死の覚悟で、鞭打ちで痛む首を抱え飛行機に乗り込み、大阪を目指した。
「暑い……やばいよこれ」
「久美さん。まだ午前中ですもの。これからですわ」
伊丹空港の夏の暑さにすでに久美は弱音を吐きだした。
ここでバスに乗り、奈良にやってきた。そして小花は今夜宿泊するホテルに久美とやってきた。
「まだお昼だからチェックインはできないけど、このホテルのロビーにご主人がいるはずなんですね」
「……背が異常に高いから目立つと思うんだけど」
「おい。久美、ここだ」
そういって男性は椅子から立ち上がった。
「どうなんだ、様子は。あ、私は久美の夫で、田中と申します」
「何を言っているのよ?名字は知っているに決まっているでしょう。ったく、恥ずかしいったら……」
そう言ってはいるが、久しぶりに逢う旦那にちょっと照れている久美に小花はふふふと笑みこぼした。
「私は向いに住む小花すずと申します。一緒に住んでいた祖母は、今は施設におりますの。私は一人で住んでいるのですが、奥様にはバレーボールに誘っていただき、ご子息の鉄平さんと拳悟さんは、一緒にジョギングしてくれて、ご家族みなさんに優しくしてもらっています」
「そうですか。息子達があなたと?なるほど……あんなので良ければ使って下さい、あ、それは久美の荷物かな、持ちましょう」
長身でスレンダー体型のカッコいい田中樹男は、妻の荷物をフロントに預けた。
「拳悟の試合は明日で、今は近くのジムを借りて練習しているんだ。顔を出してみるか?小花さんも」
そして三人はタクシーで拳悟が練習するジムにやってきた。
そこでは高校のボクシング部のコーチとスパーリングする彼がいた。
「ねえ。明日もこんな暑い場所で戦うの?」
「いいや。会場はいくらかエアコンが入っているようだぞ」
夫婦の会話をよそに小花はじっと拳悟を見ていた。そんな小花に樹男が声をかけた。
「面白いかな」
「はい。私、拳悟さんの試合観るのは初めてなんです。今までは怖くて」
「確かにな。殴り合いだもんな……お、久美、大丈夫か?」
疲れと暑さ。そしてこのジムが汗臭かったので、彼女は近くのファミレスで一人休んでいる、とこの場をフェイドアウトしていった。
「大丈夫ですか?私も一緒に」
「いいんだよ。一人にさせて欲しいと言っていたから。しかし、今回は同行させて済まなかったね」
「いいえ。それに私、ここに用があるんですの」
「用?……お、拳悟、お疲れ」
休憩になった拳悟は、見学にきた父と小花の元に掛けてきた。
「オッス!小花っち、来てくれてありがとうな!」
「お前な?母さんは心配じゃないのか」
「だって。彼女がいるんだから、母さんも来ているに決まってるだろう」
そういって拳悟は水を飲んだ。彼の身体からものすごい汗が出ていた。
「でも、暑さは平気そうですね。拳悟さん、サウナスーツで走りましたものね」
「うるさい!まあ、確かにあそこまでする必要はなかったな……よし、行ってくる」
肩をコキコキと動かした拳悟はコーチの元に戻って行った。
「調子はよさそうですね」
「……でもね。優勝候補と当たるんだよ」
「まあ?そうですか……」
そのまま考え込んだ小花は、じっと樹男を見つめた。
「……では、ご主人さま。これって、勝てば拳悟さんが優勝候補って事ですよね?」
「まあ?そうなるね」
「素晴らしい試合になるのね……良かった、観に来れて」
そう嬉しそうに話す小花に、樹男は思わず白い歯を見せて笑った。
やがて二人はファミレスで涼んでいた久美と合流し、ホテルへ戻ってきた。
ツインの部屋を二つ取っていた樹男は、自分と久美を同部屋にし、小花と別にした。
「あのさ。悪いんだけど、私はこの首を明日のために温存するわ」
「わかった。夕食は何か買ってこようか。それじゃ、俺は小花さんを連れて何か食べてくるよ」
「ダメですわ!せっかくの夫婦水入らずですもの。ご主人さまは久美さんの傍にいてあげてくださいませ」
そして小花は、友人に逢う約束をしていると言い、一人でホテルを出て行った。
「……どうだ、本当の所は」
「痛み止めが利いているから……今はなんとか」
樹男はベッドに横たわる久美のために、腰や背に部屋の枕を全部突っ込んで、調整してやった。
「……おっと?無理するなよ、それにしても。綺麗な娘だな」
「そうでしょ。で、彼氏もカッコいいんだよ」
「久美。俺が言っているのはそうじゃないよ……」
そういって樹男は窓辺に立った。
「いるんだな、心が綺麗な娘って……俺もあんな娘が欲しかったな……」
「今更無理でしょう」
「そうか?……まあ今はいいさ。俺、何か食うもの買ってくる」
こうして久しぶりにあった田中夫婦は、それなりに息子の試合を楽しみに夜を過ごした。
そして小花から部屋に戻ったというメールを受け、明日の朝食の時間を約束して一日を終えた。
翌朝。ホテルのビュッフェの一角に三人は座っていた。
「ご主人さま。ストローです」
「はい、奥さん。どうですか?」
野菜ジュースを樹男に飲ませてもらった久美は、夫を一瞥した。
「完全に遊んでいるでしょう」
「ハハハ。弱っているお前が面白くてさ」
「ラブラブですわ……」
「そこ!うっとりしないでくれるかな?全然違うから?」
「そうだな。これ、介護だし」
意地悪く話す樹男だったが、隣に寄り添い久美の為に食事を運んで来てくれた。
「お優しいご主人さまですね」
「そう?姫野君の方が優しいじゃないの」
「だって意地悪しますもの。勝手に目玉焼きにソースを掛けたりして」
そんな小花に樹男が尋ねた。
「そういえば、小花さんは今夜も用があるんだって?」
「はい。今日が本番なんです、あ、すみませんメールだ……」
こうして彼女の用を聞きそびれた田中夫婦は、後で聞けばいいや、と食事を済ませ、拳悟の試合会場へ向かった。
「あ、いた!おそこだ」
「恐れ入ります。怪我人が通るので、通して下さいませ」
小花達はこのコルセットを強調しながら拳悟が良く見える席に移動していった。
「保護者席があるって話しだけど、あそこか……」
普通ならベストな席だが、久美は苦悶の表情を浮かべた。
「私。首が曲がらないから、角度的に見えないかもな」
首が痛くて曲げられない久美は、見下ろす恰好はできないので、身を乗り出して角度を変えることしか出来なかった。これをみた小花は動いた。
「ねえ。ご主人さま。一か八か、ハンディキャップの席に座っていいか聞いてみませんか?どなたもお使いにならないのなら、OKがでるかもしれないわ」
「そうだね。ここにいなさい。聞いてくるから」
大会関係者に頼んだ樹男はOKをもらって来たので、妻を席に座らせた。
「うん。ここならなんとかなるわ。二人は保護者席で観ていて」
「いいんですか?お一人で」
「トイレも行ったしね、平気だよ……それに息子が一人で戦っているのに、私ができなくてどうするんだい」
「わかった、なんかあったら呼べよ」
戦闘モードに入った久美を、樹男はそっとしておこうと階段を下りようとした。その時、小花は久美の肩にそっと手を置いた。
「久美さん……この戦いは一人じゃないわ。札幌にいる鉄平さんだって応援しているんですもの」
「小花ちゃん……そうだね、これは総力戦だね」
「そうよ。しっかりして下さいね。これが本当の決勝戦なんですもの、さあ、参りましょう、ご主人さま……」
そういって階段を下りて行く小花の華奢な背が、田中夫婦には神々しく見えた。
「はあ。完全にやられたな、よし!俺も頑張るぞ」
久美はそんな彼に、親指をぐっと立てエールを送った。
こうして始まった試合は、両者互角でパッとしたパンチも入らず、このままでは判定になる雰囲気だった。
「判定だと、どうかな……相手の方が、ネームバリューがあるし」
「……それは拳悟さんも分かっているはずです」
じっと試合を見つめる小花の横顔に、真剣さが伝わって樹男の心臓はバクバクしてきた。
……行けーヤレー拳悟!
会場席の後方からは、久美の声援が飛んで来ていた。
「そこだ!行け。拳悟!」
「前に、前に出て……あ?……あああ」
綺麗なパンチを食らった拳悟はふらつきながらも立ち上がったが、審判がこれを止め、これで試合が決まってしまった。
「……終わったぞ、久美。おい、しっかりしろ」
すっかり意気消沈した久美を樹男は励ましていた。そこにいた小花は、久美の荷物を持って、拳悟に逢いに行こうと言った。
「はあ。せっかくいい所までいったのに」
「前に出た所をやられたからな。我慢できなかったんだな」
「……でもあれしかなかったですわ」
「え?」
まるで自分がボクシングをしていたような雰囲気をまとった小花は、次の試合をしているリングを見た。
「判定になったら、細かいパンチを出していた相手が優勢でしたもの。拳悟さんは一発狙いしかなかったんです。でも相手はそれを待っていたんですよ」
「じゃあ、どうすればよかったのさ」
「おい、久美!」
「ご主人さま?いいんです……だって拳悟さんのパンチも入りましたよ」
「でも倒れなかったじゃないか」
「それが不思議で、あ?あれは」
退場したはずの拳悟の相手は、関係者に抱えられて戻って行く姿が見えた。
「拳悟は自力で歩いて戻ったのに……今頃パンチが効いたとか?」
「……やっぱりボディに入っていたんだわ。ほら、拳悟さんの所に行きましょう」
声を返ると控室から顔を出した拳悟は、元気そうにむしゃむしゃとバナナを食べていた。
「ごめんな。負けちまった。せっかく応援に来てくれたのに」
「そんなことないぞ。お前は立派だった、なあ。久美」
「まあな。良くやったよ。拳悟お疲れさん!」
「小花っち……俺、どうだった……」
「立派でしたわ。あそこで前にでた拳悟さんの勇気……凄かった」
「マジで?っていうか、お前わかってんじゃねーか」
うんと目に涙を称えた小花は頷いた。
「あのまま判定で勝っても……本当の勝利ではありませんわ。ボクシングは相手を倒す競技ですもの。拳悟さんはあんなに倒す練習をしていたのに、前に出ないのはおかしいわ。私……潔く真っ向勝負にでて華々しく散った拳悟さんが嬉しくて……ごめんなさい?泣いたりして……」
「ば、かやろう……お前が泣いてんじゃねーよ……」
「拳悟……よくやったな」
そういって息子を抱きしめた樹男を見て、久美と小花も涙した。
「あの……お取り込みの所すみません」
「はい?」
大会関係者を名乗る男性に呼ばれた拳悟とコーチは別室で話を聞き、やがて出てきた。
「なんかさ。俺の勝ちだってさ」
「えええええ?なして」
首の痛さを忘れて大声を出した久美に、拳悟はしっと指を立てた。
「こっちで話すから!」
そして自分達しかいない部屋で拳悟のコーチは説明した。
「ええ?あの審判が無資格だったんですか?」
「田中さん。これは無効試合になったんですが、相手選手が拳悟のパンチで戦闘不能ですので、拳悟が次の試合になりました」
「やった?すごい」
「よくやったな!拳悟」
ラッキーな話しだったが、拳悟は小花が何というか実に不安だった。
「ど、どう思う?これって」
すると小花はキリっとした顔で健悟の両腕を掴んだ。
「……勝負は結果が全てよ。おめでとう拳悟さん!」
さっきと魔逆の事を話す彼女に、田中夫婦はずっこけそうになった。
「小花っち……俺、やるよ、次も」
うんと頷いた彼女に抱き付きたかった彼だが、親の手前これが出来ず、すうと整えこの手を断腸の思いで離し、戦うリングへ向かって行った。
こうして勝ち進んだ拳悟は、優勝候補を倒したという噂にのっかって、試合前から相手の意を奪うような久美譲りのオーラを放っていたので、どんどん勝ち進んで行った。
「やった!1ラウンドでKOですわ」
「おい、久美!観たか。拳悟が決勝だって。お前、何を泣いているんだよ」
「……だって……あいつ……ううう」
「久美さん……首大丈夫ですか……」
「とっくにぶっ壊れているよ。小花ちゃん、ありがとうね……」
「私も礼を言うよ。ありがとう小花さん」
田中夫婦に礼を言われた小花は、優しく首を横に振った。
「頑張ったのは拳悟さんですよ?さあ、明日の応援に備えて、ホテルに戻りましょう」
暑さと疲れでボロボロになった三人だったが、小花は今度は友人のために応援に行くと言い出した。
「樹男。私はここでゆっくりしてるからさ、小花ちゃんをお友達の所まで送ってくれない?」
「そうだな。何だか知らないが人が多くなってきたし」
遠慮する小花だったが、若い娘を一人で外出させるのに抵抗があった樹男は、彼女と供にホテルを出た。
「すみません。ご夫婦でいて下さって良いのに」
「ハハハ。実はね、私はこれでも頼りになるんだよ、君の警護をさせてくれよ」
北海道警察の樹男は、その洞察力と身体能力を買われて公安の仕事を手伝っていた。任務の内容は家族にも内密であり、久美も樹男がどこで何をしているのか把握はしていなかった。
実際の彼は関西にいる国際的重要人物の警護をしており、今日は他の者に代わってもらいここに来ていたのだった。
「ご心配かけてすみません。でも、心強いですわ。今夜は色んな人がいそうで」
電車の車内で話す小花の周りには、あきらかにインドア派の男性がわんさか乗っていた。
「確かにね。何かイベントがあるのかい」
「はい!ご主人さまは『eスポーツ』って御存じですか?」
「ゲームだろう?それがどうしたんだい」
すると彼女はスマホを検索して彼に見せた。
「これをご覧くださいませ。私はそこに映っている同じ顔の人達がいますでしょう。その二人の応援というか、手伝いに行くのです」
この内容に、樹男は息をごくと飲んだ。
「……なるほどね。わかったよ。さすが小花さんだ……今夜はね。俺に君を守らせてくれないかな。君に何かあったら息子達に顔向けできないんだ」
この大げさな話しに、小花は何度も瞬きをしていたが、樹男の笑顔に、思わずうんと頷いた。
古都、奈良の暑い夜。
街のあちらこちらで見かける金魚はこの街のシンボルだった。
金魚の飼育販売は、「昔の武士の副業」という説明書きを読んだ樹男は、北国では無理だと笑った。
そんな彼の頬笑みの中に、鉄平と拳悟の姿を見た小花は、彼をお供に今度の戦いのステージのゲームスタジオに足を踏み入れたのだった。
ヤマトへ 死闘につづく。
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