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「お前、そこでなにしてるんだ」
幻聴だろうか、熊が突然しゃべった。
でも、よく考えたら、今頃熊は土の中で眠っているんだっけ。なんて、どうでもいい事を考えていたら、その影は私の両肩に手を置き、大げさに揺さぶりながら再び声をあげた。
「いいの……私の……事は……」
「お前、こんなとこにいたら、死んじまうぞ」
そう言うが早いか、その影は私の前に背を向けてしゃがみ込み、有無を言わさず私の両の手を肩に引っ掛けると、ゆっくりと立ち上がった。
彼の冷え切った背中に揺られながら、それでも何故か私はぬくもりを感じていた。
「人に触れるのって、ずいぶん久しぶりだなぁ」
「え?何か言ったか」
小声で言ったはずなのに、この猛吹雪の中、私の声は彼に届いてしまったらしい。
それもそうか。私の震える唇は、彼の耳元に触れるか触れないかの距離にあるのだから。
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