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お客様も残り少なくなったチョコを奪い合うように買うから、阿鼻叫喚、地獄絵図だ。
もっと早よ買いに来いや! そもそも聖人の命日やろ!(ネット知識) 浮かれとってええんか!
と怒鳴りたいのを我慢して、必死で働いた。
「休憩、行ってき」
昼もだいぶ過ぎてから、係長が来てくれた。
催事場と同じく、えらいことになっている洋菓子売り場を横目で見ながら、ロッカーからカップ麺を取ってきて、休憩室に入った。
社食までいく時間がもったいない。
休憩室にいた何人かが、俺と入れ替わるように出て行った。
残ったのは洋菓子売り場の契約社員の女性だ。結構かわいいが、飲み会に全然来ない子だから、これは親しくなるチャンスだ。
何を話題にしようかと考えながら、麺をズルズルすすっていたら、彼女のほうから「あのぅ」と声をかけてきた。
「これ、よかったら、どうぞ」と差し出されたのは、催事場にも出ているショップのチョコの箱。
「え、俺に? ええの?」
「はい、もちろん」
予想外の展開に俺は内心慌てふためいたが、「ありがとう」と飛び切りの笑顔を浮かべる。
よかったら、今度飲みに――と続けようと思ったが、彼女は別の箱を出してきた。
「よかったら、これも」
そちらは、開封済みで9つの枠に3つしかトリュフが残っていない。
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