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其処は緑の多い何かの公共施設のような印象を受けた。
「ひ……広い」
ただ呆然としていた。開かれた大きな門の前で私は数分前からウロウロしていた。
(日曜日なのに結構人がいるんだ)
日曜日である今日、私はヒナタに『和馬と図書館で勉強してくるね』と嘘をついた。
ヒナタがちょっと変な顔つきをしていたのが気になったけれどそのまま家を出た。
ヒナタに嘘をついてまでやって来たのは条林大学だった。
亡くなった父が最後まで通っていた大学。そしてヒナタが通っている大学。
此処に来れば父の事、そしてヒナタの事が何か解ると思ったのだ。
(……とはいえ)
大学という処は中々気軽に入れる雰囲気じゃないというのを痛感している。
「──君、どうかしたの?」
「!」
いきなり声をかけられて驚いてしまった。慌てて振り返ると其処には眼鏡を掛けた如何にも頭が良さそうな男の人が立っていた。
「あ…あの……」
「先刻一度君の傍を通り過ぎたのだが、まだウロウロしていたから気になって声をかけただけであって決してナンパとかではないから」
「……はぁ」
別にナンパだとは思っていなかったけれど、あたかも私がそう思っていたかのような言い方をされて少し首を傾げた。
「ま、まぁ思っていないならいい。で? この大学に何か用なのかな」
「あ、はい。 ……会いたい人がいて」
「それは誰? ──もしかして君、ストーカーとかそういう類の人間じゃないよね?」
「へ?」
全く思ってもいない事をいわれて一瞬、言葉に詰まった。
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