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「き、君は野々宮博士の娘さんだというのかい?!」
「え……はい、そうですけど」
いきなり動作が激しくなった男の人に驚きつつも答えた。
「なんてこった! 僕は尊敬する博士のお嬢さんになんて無礼を!!」
「! あの、父をご存知なんですか?」
「知っているも何も博士は僕にとっては憧れの人! いいや、僕だけじゃない! 機械工学を学ぶ人間は誰もが野々宮博士を尊敬しているんです!!」
「…は……はぁ」
先ほどまでの口調、態度から一転、父の事を身振り手振りで饒舌に語る男の人を見ていたら私の知らなかった父が其処にいた気がしてなんだか少しだけ複雑な気持ちになった。
「博士が亡くなったという現実は僕に大きな悲しみを与えました……正直今でも信じられないのです」
「……」
「今でも博士の死に対して喪に服している学生がいます。それほどまでに我等にとって野々宮博士は大きな存在でした」
「……ありがとうございます。きっと父も喜んでいると思います」
「! あぁぁ、勿体無いお言葉! それだけで……それだけで僕はぁぁぁ~~」
「……」
(えぇ…っと……どうしよう)
ちょっとしんみりした気持ちが男性のオーバーリアクションで潮が引く如く無くなって来てしまった。
「あの! それで佐野先生の件なんですけど──」
恐らく放っておいたらずっとこのままなのだろうと危機感を覚えた私は傍観を止め強く声をかけた。
すると我に返った男の人は分かり易く表情を強張らせた。
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