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「小春、めんつゆの買い置きはあったか?」
「あるよ。水屋の下の棚に──」
「あぁ、あった」
亡くなった父が縁で知り合った──というか、再会したヒナタと一緒に住み始めたから私はひとりぼっちではなくなった。
「ねぇ、本当に蕎麦粉から打つの?」
「打つ。意外と簡単に出来そうなんだ」
「本で読んで?」
「あぁ、打ちたくなった」
「ふふっ。そういうところ実験感覚なのかなぁ」
「どうだろう。だけど手打ちの蕎麦、食べたくないか?」
「食べたい!」
「だろう」
ヒナタが年越し蕎麦を粉から打ちたいといい、目下製作中。そんなヒナタの作業風景を私は傍で眺めている。
(結構力いるんだなぁ)
片方が義手だというのにヒナタは器用に粉を練り続ける。
蕎麦粉を練っているヒナタの腕にうっすら血管が浮かび上がっているのを見てちょっとドキッとした。
その流れから抱かれた時の力強さを感じつつ、あの腕に抱かれているのだと思い起こすとどうにも……
(って、なに考えているの、私ってば!)
「? どうした小春」
「えっ、な、何でもない!」
「……」
両膝をモジモジと擦り合わせている仕草を見られてちょっと恥ずかしくなったのでそそくさとその場を後にした。
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