花筏の行方

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「関さん」 「はい」 「先日の学会での領収書を持って来ました」 「ありがとうございます」 「中には少し怪しいものもあるかも知れないんですけど」 「一度拝見してから後日連絡します」 「すみません、お手数かけます」 「仕事ですからお気になさらずに」 少し申し訳なさそうな顔をして何度も頭を下げて去って行った彼は好感が持てる好青年だった。 「関さん、今のって院の野々宮さんですよね」 「そうね」 「知ってます? 彼のお父さんが誰なのか」 「興味ないわね」 「もう、いつもそれなんですから。なんとあの佐野准教授なんですよー」 「そう」 「それに去年結婚したお相手が亡くなった野々宮博士の娘さんなんですって! 凄くないですか? 色々あって奥さんの方の婿養子って形になったそうですけど」 「へぇ」 「相変わらず素っ気無いですね。そんなんじゃいつまで経ってもお嫁に行けませんよ」 「行きたくないからいいです」 「本当、関さんってクールですね」 「……」 大学の事務職は誰かにとっては憧れの職業だと聞いたことがある。 多岐に渡る事務職で今、私が在籍しているのは経理だ。始終領収書の勘定に明け暮れ、面倒くさい計算も難なくこなせるようになった。 (やっとここまで来た) 仕事に感情を持ち込むこと無く、常に気持ちを張っていなければ務まらない細かい作業。 それを私は敢えて望んで求めて来たのだ。
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