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「お先に失礼します」
一日の業務を終え経理課室を出た。
(18時か…。今日はひとりだから適当に済ませようかな)
肩をポキポキ鳴らしながら歩いていると廊下の端で数人の学生が固まっているのが見えた。
(……)
ああいう光景は此処では日常茶飯事。そして大抵その輪の中心にいる人物を私は知っている。
「もうー先生ったら上手いんだからー」
「本当! そうやって今まで何人落として来たの?」
「遊びでもいいから付き合ってよ~」
「はいはい、君たちちゃんとお勉強もしてね。いくら媚を売っても評価には影響しないからね」
「「「えぇーズルいぃぃ~~」」」
(……相変わらずお盛んだこと)
黄色い歓声を上げる集団の横をスッと横切りサッサと構内を後にした。
「おぉーい、待ってよー」
駅まであと数メートルという処で聞き慣れた声が響いた。
「待って! 待ってよ、櫻子ちゃん」
「! ちょっ、ちゃん付けで呼ばないでください!」
「なんで? 俺の中では櫻子ちゃんはいつまで経っても櫻子ちゃんだよ」
「~~~」
この気易い毒の色気を放つ男は佐野徹矢。こんなのでも一応臨床心理学科の洵教授だ。
そして──
「ねぇ、櫻子ちゃん。今夜、付き合ってくれるよね?」
「……」
「勿論今日が何の日か覚えているよね?」
「……」
残念ながらこのどんないい女だってはべらかせることが出来るプレイボーイが私の好きな人──なのだった。
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