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佐野さんと初めて逢ったのは今から20年前。
大学のテニスサークルの一年先輩として紹介されたのが佐野さんだった。
この世の中にこんなに綺麗な男の人がいるだなんて信じられなかった。
そして気が付いた時にはもう好きになっていた。
だけど先輩後輩として付き合って行く内に徐々に佐野徹矢という人となりを知って行くことになり、私は幾度となく気持ちをかき乱された。
類稀なその美しい容貌通り彼の周りにはいつも多くの女性が群がっていた。
彼自身来るもの拒まず去る者追わず精神の持ち主のようで、見かける度に連れて歩く女性がいつも違っていた。
そんな彼に嫌悪感を覚えつつもどうしても気になり惹かれてしまっている情けない自分がいた。
すっかり意固地になってしまった私は彼に惹かれていることを絶対に悟られたくないと随分あまのじゃくな態度を取り続けることになる。
──だって自信がなかった
彼の周りには私なんかよりも数倍美しい女性たちが常にまとわりついていた。
そんな女性たちの中に飛び込みアプローチするほど自分に自信はなかった。
だから余計に彼に対して愛情とは裏腹な態度を取ってしまう。
『ねぇ、櫻子ちゃんってなんでいつも眉間に皺寄せてるの?』
『それは先輩の女癖の悪さに辟易しているからです』
『えぇーじゃあ俺なの? 櫻子ちゃんの可愛い顔を暗くさせてるのって』
『! か、可愛いっ?! じょ、冗談は止め──』
『冗談じゃないよ。もっと笑えばいいのに』
『……』
『櫻子ちゃんの笑顔、俺がひとり占め出来たらいいのに』
『~~~』
からかわれていることは分かっていた。彼の言葉をそのまま鵜呑みにしてはダメだと強く気持ちを引き締めた。
だけど時々囁かれる毒のようなその甘い言葉は私の心を徐々に冒して行き、彼のことが好きだという気持ちは膨らみ続けて行った。
決して私だけのものにならない男だと分かり切っているからこそ深入りするのは止めようと、諦めようと思っていたのに──……
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