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それは即ち私の知らないお父さんがいる──って事なのかだろうか。
卒業までの授業料を払ってくれるなんて只事じゃない。しかも条林大学はヒナタが行っている大学だ。
(あ、ひょっとしてヒナタは何か知っているのかな)
私のために高額なお金が動いていると知ってしまった以上私はちゃんと父が身を置いていた環境というものを知らなくてはいけないと思った。
「ただいま」
「おかえり、小春」
いつものように私が学校から帰る頃にはちゃんと家にいるヒナタに迎えられた。
父がいた頃は当たり前の光景だったけれど亡くなってからは消えてしまっていた。だけど今、ヒナタがいるおかげで当たり前の光景が戻って来ていた。
「小春、おやつ食べるか」
「おやつ? いらないよ。もうすぐ晩ご飯でしょう?」
「そうだが」
「……何、もしかして何か作ったとか?」
「クッキーを焼いてみた」
「クッキー?!」
ヒナタのその形からはちょっとイメージ出来ない可愛らしいおやつに噴き出しそうになった。
「~~しょ…しょうがないなぁ……じゃあ食べるよ」
「本当か」
「少しだけだよ? 晩ご飯食べられなくなっちゃうから」
「分かった」
「……」
嬉しそうにお茶なんか淹れて目の前に焼きたてのクッキーを出された。
「いただきます」
「どうぞ」
サクッと口当たりのいい感触とほんのり甘いプレーンクッキーだった。
「…美味しい」
「そうか。よかった」
「!」
普段表情の起伏が乏しいクールな面差しのヒナタが珍しくいい笑顔になったのを見て不覚にもドキッと胸を高鳴らせてしまった。
「小春はプレーンなものが好きだと訊いていたから気に入ってくれて嬉しい」
「え、それってお父さんから訊いたの?」
「あぁ。俺は小春の事ならなんでも知っている。博士から沢山小春情報を聞いてインプットしているからな」
「っ!」
なんでも私の事を知っているといわれるとどうにも恥ずかしい気持ちが込み上がって居た堪れなくなってしまうのだった。
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