南原商事

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 小幡産業までは徒歩と電車で30分は掛からない。なのに僕はすぐに会社を出た。その理由はたった一つ。 「はぁー、サボって吸う煙草はまた美味いなぁ」  公園の喫煙所で煙草を吸う為だ。  仕事中も煙草休憩は取れなくはないが、人と会うのが苦手な僕はこうして外回りを利用して吸う事が多い。  周りを見ると、やっぱり外回り中にサボっているサラリーマンがちょこちょこ見られる。僕は1本目を吸い終えると、すぐさま2本目に火をつけた。  最近、ストレスからか煙草の消費量が増えた気がする。1日1箱はざらだ。ひどい日は2箱3箱いく時もある。おかげで健康診断の時なんて医者からドクターストップが掛かりかけたほど。  4本目を吸っている時、ちらりと腕時計を見た。そろそろ出発しないとやばい。吸いかけた煙草を灰皿に押し付けると、僕は小幡産業に向かって歩き出した。  ビル群の間を縫って30分ほど歩くと、小幡産業に着く。小幡産業はテクノロジー関連の大手企業だ。  僕は軽くスーツのジャケットを手で払った。さっきの煙草の臭いは着いてしまっているだろうが、まぁここにも吸う人くらいいるだろう。にしてもでかいビルだ。数十階建てのビルで、ここいらのビル群の中でも特にでかい。儲かってるんだろうな。見上げると首が痛くなっちゃうよ。  僕は「よし」と気合いを入れ直して、自動ドアをくぐった。 「いらっしゃいませ、ご要件はなんでしょうか」  清潔感の溢れる広いロビーの左手に、受付があった。受付嬢は可愛い。 「はい、ええと、開発技術課の山田様にアポを取らせて頂いているのですが」  僕が近づいて話すと、受付嬢は少し顔を歪めた。鼻をヒクヒクさせている。 「し、少々お待ちくださいませ」  そのまま電話で、山田さんを読んでくれるみたいだ。受話器から山田さんらしき声が聞こえる。やっぱりあの人は声がでかい。
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