水彩ショコラティエ

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朝出掛ける前に見た星座占いでは二位だった筈なのに、今日は厄年が1日に凝縮されたような日だった。 朝から電車の遅延で、店に到着したのはオープンギリギリ。慌てて焼き菓子を準備して、隙間時間にオペラに挟むバタークリームを作ろうと冷蔵庫を開けて愕然とした。 生ぬるい空気と一緒に、バターの香りがムワッと鼻腔を刺激する。温度管理が絶対の、フランス産の熟成バターが私の手の上で柔らかくしなった。 冷蔵庫の電源が落ちていたのだ。 「さ、最悪だ……」 「今日のラッキーカラーは白です」と、女子アナが画面に向けた笑みが憎々しい。高級発酵バター「ECHIRE(エシレ)」のパッケージは白に紺のロゴ。どこがラッキーカラーなんだと自嘲するしか無かった。 「望月さん、エシレってこの辺の輸入食材店にありますかね?」 「えー、ないと思うよ。高級だからね~。確か北の方に取り扱い店舗があったけど、駅からかなり遠いし、タクシーじゃないと無理じゃないかなぁ」 「そんなぁ……」 今から店を出たとして、一時間で帰って来て17時。そこからオペラを作るとして、ギリギリディナーに間に合うか。 「とりあえず、行ってきますね」 エプロンを外しながらスタッフルームに向かう。 背後から望月さんが「タクシー呼ぼうか?」と気遣ってくれる優しさが心に沁みる。 「大通りに出るので大丈夫だと思います」 「ほんとに? この時間はなかなか空車少ないよ?」 「大丈夫大丈夫、一台くらいありますよ」 そう言って呑気に手を挙げた20分前の自分を殴り飛ばしてやりたい気分だった。 そう、今日はついてない。 タクシーだって20分粘り続けても一台も空車は無かった。
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