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「悠真くんは、きっと永野ちゃん目当てだね~」
小鍋を火にかけながら望月さんが含み笑う。
私は冷蔵庫を覗き込みながら、生クリームとクーベルチュールチョコレートを手に取った。
「いやいや、彼は単なるチョコレート怪獣ですよ」
程よく見せる好意的な態度は、嫌な気はしない。
時折会話の中に介在させてくる恋情も、うっすらだけど気付いてはいる。
だけど───
「それに私……彼氏いますし」
私には年上の彼氏がいる。
拘りがあるわけではない。年上が好きなわけでも無い。ただ頼り甲斐があって、物事を冷静に見れて。そんな根拠の無いイメージが頭の中に定着していて、付き合うのは必ず年上だった。
「えー、もしかして前にお店に来た人? 何か、永野ちゃんのイメージと違うんだよね」
「イメージって言われても……」
合うとか、合わないとか、それは付き合ってみないと分からないわけで。
「いや、きっと良い人なんだろうなって思うけどさ。多分、永野ちゃんは我慢強いから、無理しそうだなって」
「無理……ですか。彼ちょっと頑固な所あるんで確かに喧嘩はしますけど……でも良い人ですよ」
私より5歳年上の28歳。付き合って4年目になる。
「良い人」なのは確かで、いつも将来の事を考えてくれていて、いつも論理的で、倹約家で、誠実で。
きっと結婚するなら、彼の様な人間が一番理想的なのだ、と誰もが思うような人。
「僕としては、仕事は辞めて欲しい」
その一言が無ければ、彼からのプロポーズを受けていたに違いない。
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