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「もう、おわかりですね。その子というのが──きみです」
久遠寺さんはそこまで話し、頭を下げた。
「本当に、申し訳ありませんでした。ただ、恐ろしかったんです。菜々子は中居を通し、自分できみにたどり着いてしまった。文子さんと逃げたいと言い出した兄を止めることもできなかった。今回のことも、なにもかもすべて私が招いたことです」
久遠寺さんは、肩を震わせて涙をこぼした。
大人の男性の泣く姿というのは、こたえるものがある。俺は思わずシーツに視線を落とし唇を噛みしめた。
今の話に、疑うところはなかった。だとしたら、久遠寺さんの娘である久遠寺菜々子も一色愛美も……血縁上は俺の従妹、ということになる。全然、実感は湧かないが。
ただ、腑に落ちた。俺が少女たちを放っておけなかった理由がわかった気がして。
「……久遠寺さん」
シーツを見つめながら口を開くと、彼が身じろぐ気配がした。今から言おうとしていることは、久遠寺さんを傷付けるものだ。けれど、言わずにはいられなかった。どうしても、納得がいかなかったから。
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