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陽香の押す車椅子に揺られ、俺は空に流れていく雲を見ていた。
「仁志くん、寒くない?」
心配そうに後ろから覗き込んできた陽香の目尻が、赤くなっていた。さっき、久遠寺さんが帰ったあとで泣き崩れていたせいだ。
陽香は何度も俺に「ごめんね」と繰り返した。なぜ謝られるのかわからなかったけど、何かと自分のせいにしがちな俺と彼女はよく似ている。陽香は泣けない俺の代わりに泣いているんだろう。
だから陽香が泣きやむまでずっと胸にもたれさせ、昔のままの艶やかな手触りの髪を撫でていた。
弘毅に刺されて、死ななくてよかった──今頃、そう思った。
「大丈夫だよ。コート着せてもらったし、ひざかけも。過保護なくらいだ」
そう笑顔を返すと、陽香は複雑な笑みを浮かべる。
きっと、さっきの気持ちがまだ尾を引いているんだろう。
「ねえ、陽香」
「なあに」
「俺が父さんと母さんの子じゃないって、母さんから聞いたの」
「あ……」
振り返ると、陽香は眉尻を下げ素直に頷いた。
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