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それを思うと、今すぐ陽香にすがり付いて泣き出したい気分だった。彼女に伝えるべきではないことまで何もかも洗いざらいぶちまけて、俺で陽香を汚してしまいたかった。
他の誰のところへも行けなくなるくらい俺で満たし尽くして、息もつけなくなるくらい。
陽香の手を握って温めながら、彼女の顔を覗き込んだ。白い頬にそっと指先を伸ばし、すべらかなそれをゆっくりとなぞる。
「……陽香」
「なあに……?」
「……もう、言葉が追いつかないんだ。なにを言ったらいいのか、俺にはわからない」
「仁志くん……」
力を入れることができない手で、陽香の腕を掴みぐっと引く。彼女が汚れた地面に転んでしまわないように、膝の上に抱き寄せた。
「仁志くん、だめ、傷が……」
「大丈夫だから」
陽香は俺の傷に触れないように、肩に手を置き戸惑いながらこっちを見た。
「なんて言ったらいいのか、わからない……でも、好きだ。きみが好きなんだ」
「仁志くん……」
陽香が、ぎゅっと唇を噛みしめる。
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