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だから、少し冷えてしまった陽香の体の中に、同じものを返したいと思う。その方法がこういうことしかないから仕方ない──なんて言ったら、欺瞞が過ぎるだろうか。
「もう。仁志くんが退院してから言おうと思ってたのに……」
陽香が涙をこぼしながら軽く息切れするその意味がわからないほど、鈍くはない。
体の自由が利くなら、もうそのまま陽香に混ざってしまいたい。
けどそれができないから、濡れた彼女の唇に軽く噛み付いた。腕の中の体はビクリ、と小さく震える。陽香の瞳が、熱をはらんで俺の瞳をじっと覗き込んだ。
「仁志くんなんて嫌い。大嫌い……」
「……」
「ずるいし、勝手だし、あたしのこと、すぐ泣かせるし」
泣かせるってどっちの意味だろう……と考えていると。
「すぐ、そうやって変なこと考えるし」
言われてしまった。
「……びっくりした。全部お見通し?」
陽香は呼吸を乱し、唇を噛みしめた。ついでにやたら色っぽい溜め息をひとつつく。その妖艶な表情に、心臓がドクンと跳ねた。
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