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「……それでも、あたしだって仁志くんじゃなきゃだめなの。……だいすき、なの」
言ってから自分で恥ずかしくなったのか、陽香は俺からふいと視線を外し、体重をかけないように立ち上がる。ふわ……と離れていくいい匂いを追いかけるように、俺は立ち上がった陽香の背を見つめた。
「なんで」
「え?」
「なんで今、そういうこと言うの」
「……だから、言ったじゃない。退院してから言おうと思ってた、って……」
「なんで、言っちゃうんだよ」
「どうしてそんなに怒るの?」
「……」
顔を赤くしながら、泣きそうな顔をする。だから……そういう顔はやめて欲しい……。
まるで思春期のガキみたいに反応してしまいながら、俺のほうが泣きそうだった。
この感覚も、実に7年ぶりで──俺は、今目の前にいるこの娘にひたすら恋焦がれていたことを全身で思い出す。
今は指一本彼女に触れてもいないというのに、頭の芯が熱を持ってとろとろに溶け出してしまいそうだった。
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