恐竜

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祐樹は物陰で息を潜めていた。 絶対に、見つかってはならない。 そう、絶対に…ーーー 祐樹のそばには恐竜がいた。 名前は知らない。 しかし硬い鱗に覆われた巨体、爬虫類のような瞳、鋭い爪に尖った牙。 まぎれもなく、恐竜だ。 襲われればひとたまりもない。追いかけられたら敵わない。 祐樹が恐ろしさに震えていると恐竜は座った。 そして長く長く息を吐く。 それは一息ついた人間のような動きだった。 もしかして、今なら、逃げれるかもしれない。 そんな期待とともにちらりと物陰から身を乗り出した。 大きな目がぎょろりと動いている。 だめだ。見つかったら死ぬに決まっている。 絶望に体を抱きかかえた。 不意に恐竜はその瞳から涙を流し始めた。 ウミガメの出産のようだと、何故か祐樹はそう思った。 みるみるうちに恐竜の背中が真っ二つに裂けていく。 信じられない光景に目を見開いた。肉が見える。血が見える。骨だけは、骨格を保って存在している。 めりめりと恐竜の背中が裂けた。 深い緑色のような皮膚と赤黒い肉の色が気持ち悪い。 それよりももっと気持ち悪いのは中身だった。 骨だけとなった背中の中に、それはいた。 肌色の皮膚の小さな…赤ん坊。 赤ん坊というには薄気味悪い。 人間のような肌色の柔らかそうな皮膚、金色の長い髪、大きな瞳。 しかし恐竜の頭と大きな指が三本しかない手、長い睫毛をつけた瞳がぱちくりと動く。 彼女は辺りを見回して不意に気づいたように胸元を手で覆った。 どこか艶かしい雰囲気がある。それがまたおどろおどろしい。 きゃあ、と彼女が叫んだ。 それは赤ん坊の泣き声というよりは女の叫び声だった。 恐竜が弾かれたように立ち上がりこちらへ向かってくる。 逃げようと思った瞬間には既に遅かった。 鋭い牙は祐樹の首を捉えていた。 俺は、一体何をみていたんだろう。 否、何を見せられていたんだろうか? 答えはなかった。
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