黒い箱

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黒い箱

職場の同僚に棚木という男がいる。 色黒、筋骨隆々、身長180センチ以上、社交的で派手好きな棚木は、典型的な虚弱体質、もやしの擬人化を地で行く僕の真裏から産まれたような男だ。 去年の4月に中途採用で丹羽物産に入社してきた棚木に、仕事内容を細かく教えたりルート営業で回る取引先に紹介したのは勤続4年目の僕で、それは同い年の僕と棚木がオセロみたいだと面白がった部長による采配だった。 初日こそ敬語を使い従順な態度を示していた棚木だったが、2日目、3日目と日を重ねるごとに態度は軟化し、週末をまたぐと完全にタメ口になっていた。棚木は半年で僕の営業成績をあっという間に抜き去り、それどころか社内トップに躍り出た。入社して一年以上経つ今、棚木は完全に僕のことを見下している。 だから去年の11月、突然一緒にライブに行こうと誘われたときは驚いた。 「ライブって、誰の?」 ルート営業を終え、配送車を車庫に入れ営業所に戻る途中、車庫の前にある赤いブリキのバケツの横に棚木は立っていた。水が張ってあるそのバケツ周辺が、職場で唯一喫煙が認められた場所だった。     
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