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「女の子の心の中は……って部分は分かる気がします。でも前半の醜男達の心は純粋でってのはちょっと納得出来ないですね。だってあいつら、どんな妄想しているか分からないじゃないですか。俺の愛美の写真や動画を見て、家でどんなことしているかって考えたら、あいつらの心が美しいなんて認めたくないですよ」 「まぁ、彼氏だったらそう言いたくなるよな」  与野さんは俺から離れて他の後輩に話し掛けに行った。気分を悪くしたかもしれず、こちらも悪い気がした。  与野さんを振り払うように、俺は壇上の愛美に注目する。  舞台上では女の子達のアピールタイムが始まっていた。見た目は幾らでも取り繕えるが、中身の無さが露呈する時間帯である。全く的外れなことをする女の子が多く、今年もガッカリアピールをする子が続出した。どうでも良い剣玉の巧さを見せつけたり、こちらも正解を知らない円周率を100桁まで言ったりなんてのを、観客も審査員も求めていない。  俺は愛美に歌を歌うようにアドバイスしていた。流行りのJ-POPではなく、オペラの中から選曲させて、歌の巧さも大事だが、素肌を露わにしている両腕を出来るだけ大きく動かせと助言した。ウェディングドレスを着ている状況では、女の武器の脚が見えない。アイドルがミニスカートを着てダンスを披露するのは、観客の男が女の子の身体とその動きを見たいからだ。アピールタイムのためにいちいち着替えるのは面倒だし、折角清純に見えるウェディングドレスも用無しだ。  愛美はオペラ歌手にビッチリ仕込んで貰った『ある晴れた日に』をイタリア語で歌い始めた。観客の誰も何を言っているか分からない。しかし、愛美の声が美しいことだけは誰にでも聴き取れた。愛美の身振り手振りは白色の肉枝を求める男達の視線を集中させ、勝手に厳粛な雰囲気を創った。  アピールタイムが終わり、今年のミスキャンパスが発表された。 「文学部3年生、柴田愛美さんです!」  愛美が両手で口元を抑えながら笑顔を見せた時、愛美は誰よりも輝いて美しかった。
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