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 愛美がランウェイを歩き出したので、再び女の子に目を向けた。  愛美は本当に美しい。自分が彼女の恋人じゃなくても絶対に誰が見ても美しく見えるはずだ。俺には早朝のニュース番組やスポーツ選手にマイクを向けて取材している女性アナウンサーとして働いている愛美の姿が目に浮かぶ。 「大変な女の子を捕まえてしまったな」  与野さんはほくそ笑みながら、俺を見て揶揄ってきた。与野さんは俺達の関係を知っている。 「大変だぞ。これから彼女に色んな男が近寄って来るんだ。会社の社長や医者やスポーツ選手や人気俳優や大変な奴らが近付いて来る。お前、そんな男達に勝たないといけないんだぞ」 「いいえ。愛美は現実が見えている娘です。与野さんだって本気で芸能人と付き合おうとはしないでしょ? 女の子もアイドルの男のコンサートに行くけれど、現実は普通の男と結婚するもんじゃないですか」 「だと良いがな……」  与野さんの言葉は悲しげに聴こえた。与野さんが訊いてくる。 「お前は誰が一番美しいと思う?」 「愛美です」  俺の早口の即答に、(わき)(くすぐ)られたように与野さんが微笑を噴き出す。与野さんは舞台袖から会場全体を見つめているようだった。 「俺はねぇ、一番美しいのは客席の醜男(ぶおとこ)達だと思うんだ」  美しいのは醜男と云うのは矛盾しているが、俺は指摘せず与野さんの話を聞いた。 「男達は純粋に女達の美しさを求めている。見方によっては確かに愚かに映るし醜い。でも傍から見たら美しい女の子達はどうかな。将来は女子アナになりたいとか有名になりたいとか金持ちと結婚したいとか色んな欲望を腹の中に抱えているんだ。ミスコンに4年間携わって、壇上と客席とで美のコントラストが在ることを知ったよ。見た目が醜く心が純粋な男の観客と、見た目は美しいが心は羨望に塗れている壇上の女達とでね」
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