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愛美がミスキャンパスに選ばれた当日は、マスコミにまで囲まれて忙しく、ほとんど会えなかった。
その後も、愛美は雑誌の取材が立て込んだり、大学のイベントに頻繁に呼ばれるようになったりして、急激に忙しくなり、会えない日が続いた。
俺も忙しかった。俺は理工学部で化学を専攻している。学園祭が終わった後は勉強や研究に努めざるを得なくなった。
それでもLINEでやり取りは毎日行っていたし、電話して声を聴くこともあった。
しかし、何と言っても倦怠期と重なってしまったことも大きい。
俺は無数の試験管やビーカーを使い、化学式通りに橙赤色の王水を作る実験をしている。濃塩酸3、濃硝酸1の割合で組み合わす。こんな作業、誰でも朝飯前に熟せる。俺も本気を出せば、どんな毒ガスでも劇物でも作り出す自信がある。
しかし、白衣を身に付け、ゴーグルやマスクで顔を覆い、手袋に包む両手で黙々と作業をするのは思っているよりもしんどい。単にマニュアル通りに組み合わせれば出来る物でもない。純度や精度と云う概念があるからだ。
しかも俺が王水を作るのではない。俺がやるだけならこんなこと何の問題も無い。うちの研究室は学年が上の生徒が後輩に指導するカリキュラムが組まれている。いくら先生の監督下にあるとは云え、高校を出たばかりで試験管の振り方すら分かっていない1年生達に教えるのは根気が要る。他人に教えられなければ先には進めない。
俺も柴田愛美をミスキャンパスにするために特訓や助言を施して見事にそれは成就した。だがそれは口で言ったり、文字で書いたりするより遥かに骨が折れる作業の繰り返しだ。
恋愛もある意味化学式通りだ。会えなくなって、疎遠になって、1年も付き合うと倦怠期と重なって、そろそろ別れたくなっている。判で押したような恋愛しか俺と愛美の間では行われなかったわけだ。
そんなこちらの気も知らず、1年生は初めて生成した橙赤色の液体を見て、上手く出来たことを仲間達と喜び合っていた。
俺も1年生の時は同じ気持ちだった。
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