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学園祭の実行委員同士で知り合った医学部の渡会とは気が合う。同学年で同い年、学園祭の実行委員会に入れなければ会えなかった男。
同じ研究室の奴らと食事するのに飽きると俺は渡会と昼食を共にする。大学のカフェテリアの窓向きの席で同じ学食を食べながら夢を語り合った。
渡会は内科の医者になりたい。俺は化学系の研究所や企業に入り、研究者になりたい。
大学は『就職予備校』と揶揄される。しかし学んだ知識や経験を将来の仕事に使いたいと思う気持ちは皆が持っているのではないか。将来使わないなら、何故それを学ぶ必要があるのか。
「俺は、大学は就職予備校で良いと思っている」
俺が持論を述べると、渡会も賛成してくれて嬉しかった。
「でも、お前ともあと2年だな」
渡会が急に呟いたので俺は彼の横顔を見た。同い年なのに俺より幼く見える渡会。女の子にはモテそうだが、遊び人の雰囲気は無い真面目な青年。渡会は窓の向こうの空を見ていた。
「医学部は6年だからさ、大学生活もまだ折り返しだけど、お前はもう1年したら卒業しちゃうんだろ? なんか寂しいと思ってさ。同じ学部の奴と飯食うのも楽しいけど、こうしてたまに違う学部のお前と話すと面白くてさ。同じ理系なのにお前は4年、俺は6年掛かる。医師免許を持っても研修医だからね、20代は。医者って中々1人前になれないんだ」
「与野さんが言ってたよ。ミスコンは、外見が醜くて内面の美しい男の観客、外見が綺麗で内面が醜い壇上の女の子とコントラストだ。それを客観的に実行委員の立場から見ていたんだって、俺達」
「何が言いたいんだ?」
「医者は患者の身体を客観的に見る立場だから時間が掛かるんだよ。医者のお前はきっと俺よりも長生き出来る。他人よりも長い時間を生きて、不健康な患者達を客観的な立場で見ていく。それがお前の進んでいく医師の道だと思うんだ」
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