1/1

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

「ごめんなさい、もう別れたい。他に好きな人が居るの」  声に出されて耳で聴いたらどれだけマシだっただろう。夜11時、自宅でスマホを手に取り、LINEで読んだ。  俺は愛美に電話した。愛美は電話に出てくれた。 「どうして、別れなきゃいけないんだ!?」  俺の言いたいことはそれだけだったが、こちらが知りたい肝心な所になると愛美は無言を貫いてきた。 「ごめんなさい」  とは言ってくれるが、それ以上の理由は述べてこない。納得は全く出来なくても流石に気付く。  もう、ダメだ。  俺は電話を切る。デスクトップパソコンの前で椅子に座りながら、普段はYoutubeで自分の見たい動画を見るが、今は自分が何を求めているのか分からないので、久しぶりにテレビを見ようと思った。俺のパソコンモニターは薄型テレビなので、リモコンの入力切換を操作してHDMIからテレビに切り換える。  やっていたのはニュース番組。交際のトラブルで女性が男に殺される事件が丁度報道されていた。  俺が愛美を殺害したら、大学のミスキャンパスが殺される凄惨な事件として大きく報道される。Yahoo!ニュースのコメント欄には、罵詈雑言や「死刑にしろ」などと云った書き込みが多く載せられて、『そう思う』を示す赤文字の指が多くのクリックを集める。  10年経ったら「そんな事件あったなぁ」で思い出す。  20年経ったら「そんな事件あったんだ」で知られる。  どちらも忘れられることに変わりはない。  俺は自分がバカだったらと思った。もし俺がバカだったら愛美を殺害している。バカになれないから、事件など起こせない。自分の将来を全部棒に振ってしまう。そんなこと出来ない。  自分の感情に素直になれたら。  カメラのフラッシュを浴びながら警察に連行されて行く醜い男の犯人達が羨ましい。  あいつらはバカだ。バカだから人を殺すんだ。(なん)にも考えずに。  殺人犯になるには、あまりに殺意が湧き上がって来なかった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加