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昼食を終えて研究室に戻るが、今日は教授も学会に出ているし、後輩達も授業や実験も無いから来ていなかった。
窓から差してくる夕焼けの橙黄色。
就職活動を控えて、卒業論文の準備もしなければならないため、大学の研究室にやって来ていたのだ。
だが椅子に座って考えるのは卒論のことでも就活のことでも無い。
愛美に復讐したい。
しかし、殺してしまっては元も子もない。『悪いのは俺、被害者は愛美』になってしまう。『愛美が悪、被害者は俺』とする方法を模索するが、最良の選択はこのまま何もしないことだ。
愛美に分からせなければいけない。
女性が如何に弱いか、男性を怒らせるとどれだけ恐ろしい結果を招くか、それを分からせなければならない。
男をナメるな。
世間一般に分からせることは出来そうにない。昨日テレビの女性礼讃ぶりを見て、女性は強くて美しいと視聴者が思い込んでいるのは明らかだ。そして犯罪者は無条件で悪だ。其処には思考など無く、信仰が在る。何を言っても聞く耳など持たない。
「犯罪は悪」
それだけ。
殺しては愛美の思考は停止してしまう。霊などと云った非科学的要素を除けば、彼女の人生は其処で終わる。
それではダメだ。愛美は生きている状態で苦しまないとダメだ。
夕焼けの太陽が凍り付いた俺の心と身体を氷解させていく。
俺しか居ない研究室には試験管やビーカーがあって、柴田愛美に王水を掛ける計画を思い付いた。
必要な薬物は教授の名前を悪用して、どうとでも用意出来る。
善は急げ。
王水の生成を始める。
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