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バートーク
ロックバンド“イルミナ”のドラマーのデービッドは、“スピカ”というバーのバーテンダーのバイトをしている。
バンドは人気が出てきて、副業の必要はなかったが、メンバーはそれぞれ、昼間の仕事と掛け持ちしていたので、デービッドもスタジオワークが休みの日は、バーテンダーを続けていた。
その夜は、5月なのに北風が吹いて冷え込んだので、スピカは、10時を過ぎると客もまばらになった
このややハイエンドなバーはダウンタウンの表通りにあり、モダンなインテリアと、大小無数の間接照明を駆使した室内ライティングがウィンドー越しに見え、品のいい若者客でにぎわっている。
デービッドは早めに上がろうかと、グラスを拭きに集中しいていた。
「よう、デービッド」
カウンターに一人の客が座った。バンドのヴォーカルのアランだ。彼は、顔が割れないように黒のキャップを深くかぶって、いつものように両手は白のスウェットのポケットに突っ込んでいた。
「アラン、暇なのか?何にする?」
「何がいいかな?氷のいっぱい入った、ジントニックかな?水もお願い。」
「ボンベイ?」
「うん。この店いいね。おしゃれな感じ。照明、君のデザインだって?」
「そう、意外とうまくいった。」
デービッドが嬉しそうに話しかける。
「アラン、初めてだよね、来てくれてありがとう。ケイトも来るの?」
「ううん、ケイトは法律事務所で深夜残業だってさ。」
グラスにジンを注ぎながらデービッドは言った。
「彼女、よく働くよな、イルミナの秘書と法律事務所の掛け持ち、どっちも忙しいのに。いい娘だね、本当に。よく気が付くし、優しいし、おとなしいし。あの笑ったとこが、最高にキュートだよな。エル・ファニングに似てない?」
アランはキャップのつばの影から、遠目でデービッドを見て言った。
「エル・ファニングってどういう顔だっけ?そう、スタジオの秘書としては優等生だよね。僕といるときは、今言ったこと全部、真逆だよ。」
「本当か?」
アランは微笑んだ。
「ついこの前まではそうだった。泣いたり笑ったり大変だったけど、この頃少し落ち着いてきたかな。」
「仕方ないね、アランの彼女なんだから。大変だと思うよ。」
アランは怪訝に言い返した。
「えっ、僕が悪いの?、、、、、そういう見方もあるのか?てっきり彼女の性格なんだと思ってたけど、、、、、そうか、僕が原因なのか。」
デービッドは笑いながら、ジントニックとペリエの入ったグラスを差し出す。
「はい、どうぞ。」
アランは水を一気に飲み干した。
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