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なにより……最期の別れも言えずに死んでしまった彩香を想うと胸が痛かった。
死ぬことが分かっていたなら、一言くらい優しい言葉をかけてやりたかった。
しかし、その後悔を抱いてきた人は五十嵐だけじゃない。
みんなそうなんだ。
いつ来るか分からない人の死を人は見ようとはしない。想像することもしようとはしない。
明日は必ず来る―――。
だから今日も明日も同じ毎日に違いない…そう思ってしまい、感謝の言葉や昨夜の口喧嘩の謝罪も、後回しにしてしまう。
人の最期がいつ訪れるか、誰にも分からないというのに……。
まだ、どこかで彩香が生きているような…そんな錯覚はいつまで続くのだろう。
五十嵐は夕日が沈む中、街に向かって車を走らせた―――。
<終わり>
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