悪魔降臨

31/31
前へ
/341ページ
次へ
なにより……最期の別れも言えずに死んでしまった彩香を想うと胸が痛かった。 死ぬことが分かっていたなら、一言くらい優しい言葉をかけてやりたかった。 しかし、その後悔を抱いてきた人は五十嵐だけじゃない。 みんなそうなんだ。 いつ来るか分からない人の死を人は見ようとはしない。想像することもしようとはしない。 明日は必ず来る―――。 だから今日も明日も同じ毎日に違いない…そう思ってしまい、感謝の言葉や昨夜の口喧嘩の謝罪も、後回しにしてしまう。 人の最期がいつ訪れるか、誰にも分からないというのに……。 まだ、どこかで彩香が生きているような…そんな錯覚はいつまで続くのだろう。 五十嵐は夕日が沈む中、街に向かって車を走らせた―――。 <終わり>
/341ページ

最初のコメントを投稿しよう!

649人が本棚に入れています
本棚に追加