雪の幸せ

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雪の幸せ

 白い息を吐きながら、兄は両親から貰ったお小遣いを大事に持っていた。  年末を控えた十二月は、毎年行事に向けて、どの地域でも準備が進められている。  その影響で、シャリア魔術学園は早い段階で冬休みを設け、年末の準備向けて教師たちも長い休暇を取っていた。  両親の手伝いで、店の飾り付けを済ました兄妹は屋台街を歩いていた。 A「お兄ちゃん見て。あそこ、アスカ先生のパン屋だよ」 B「へぇー、あのスキンヘッドやろうがパン屋か」  兄の悪口に怒ったのか、妹はくるりと振り返る。  雪化粧のように染まった銀髪と、父譲り紅玉色の瞳が日光に反射して美しい容貌を際立てていた。 A「先生の悪口はメだよ」  妹は兄の唇を右手で押さえ、寒さで赤く染まった頬を近づける。すると、動揺した青玉色の瞳と無邪気な紅玉色の瞳が交じり合った。 AB「「……」」  息遣いが聞こえる距離。火照った肌からは甘く、まるで大人の女性ように妖艶な匂いを放っていた。 B「いきなり、なんだよ」  乱れた呼吸を落ち着かせ、兄は照れ臭そうに距離を置いた。 A「……ええと、あれが食べたい」  戸惑いながら妹が指さした屋台はホットドッグ屋だった。見れば、昼前なのにちょっとした列を作っている。 A「お兄ちゃん。もし、買ってくれなかったらアスカ先生にさっきの言いつけるからね」  と、妹はぺろっと小さい舌を出して小悪魔チックに頼んでくる。 B「ちっ、分かったよ」  屋台のおじさんから購入した兄は、残る温もりを名残良さそうにホットドッグを放った。上手くキャッチした妹は、包みを上げて嬉しそうに微笑んだ。 A「お兄ちゃん、ありがとう」 B「どういたしまして」 やがて二人が歩く途中、冷えた街を雪がヒラヒラと舞い落ちるのだった。
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