10話

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 初めて愁の家に遊びに行った時の事だった。愁は几帳面な性格だからか、部屋の中は綺麗に整理整頓されていた。恋人の家に遊びに行くというのは、何だか照れくさくて、落ち着かなくて、ソファーに座りながら、晴斗はきょろきょろと辺りを見回していた。ふと、あるものに目が入った。それは、晴斗が愁に対して贈った小さな勿忘草の花束だった。晴斗が立ち上がると、部屋の中に飾られている勿忘草の花束にゆっくりと近付いた。愁もそんな晴斗を追いかける様に、ゆっくりと立ち上がると近付いて行く。晴斗は、はにかむ様にして笑みを浮かべながら、愁の空色の瞳を見つめる。 「大切に持っていてくれたんですね」 「お前から、初めて貰ったプレゼントだからな」  勿忘草の花束をドライフラワーにして大切に飾っていると、愁が告げてくるので晴斗はとても嬉しくなった。ふと、愁は晴斗の方に振り返ると問いかけてきた。 「晴斗は、勿忘草の花言葉は知っているか?」 「花屋の店員さんに教えてもらいました。『私を忘れないで』ですよね」 「あぁ。……だがな、勿忘草にはもう一つ花言葉があるんだ」  晴斗の頭に疑問符を浮かべて首を傾げていると、愁はそっと晴斗の事を抱き寄せる。そうして、晴斗の耳元でそっと囁いたのだった。 「勿忘草の花言葉……『真実の愛』だ」  その言葉を理解した瞬間に、晴斗は見る見るうちに顔を真っ赤に染まらせる。そんな晴斗が愛おしくて仕方がない愁は、穏やかな笑みを浮かべながら、晴斗の事を大切に抱きしめる。 「愛している、晴斗」 「愛しています、愁さん」  晴斗も身体を愁に預けると、幸せそうに笑みを浮かべながら抱きしめ返す。そうして、空色の瞳と蜂蜜色の瞳が交わった。お互いに熱の篭った瞳で見つめ合うと、深い口付けをするのだった。甘い蜜の様に、酔いしれそうになる深い口付け。  お互いに忘れたくないと、 このまま夜が明けないで欲しいと、 願った夜に真実の愛を結んだ物語。 終
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