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飲酒店から出ると、お互いに無言のままだった。男性は他の人よりも体温が低いのか、握ってくる手が冷たく感じた。けれども、その冷たさがカクテルを飲んで身体が熱くなった晴斗にとって、少しだけ心地よく感じた。
しばらく歩いた所で、男性は掴んでいた手を離すと、晴斗に対して振り返る。その表情はとても呆れかえって肩を竦めていた。
「遊び半分で、来る所じゃないぞ。お前みたいなのは格好の餌食だ」
「す、すみません……。あの、助けてくれてありがとうございました……」
晴斗は慌てふためきながら、助けてくれた男性に対して、ぺこぺこと頭を下げる。男性はやれやれと溜息を吐きながら、晴斗の蜂蜜色の瞳を真剣な眼差しで、じっと見つめてくる。
「……次は、無いぞ」
次は助けない。暗にそう忠告した男性はその場を去ろうとした。けれど、晴斗はせっかく男性と話す機会が巡ってきたことに対して、どうしても逃したくて、なけなしの勇気を振り絞って声を掛ける。
「あ、あの……!」
「……まだ何かあるのか」
「あなたを……、買いたいです」
晴斗の心臓の鼓動はどくんどくんと脈打って、ドキドキしていた。もしかしたら、断られるかもしれないと言う不安を感じながら、男性の事を真っ直ぐな視線で見つめた。男性から視線を逸らしたくも、俯きたくもなかった。晴斗の言葉に対して男性は、一瞬目を見開いたが、やがて、悪い笑みで口角を上げる。悪く笑う姿も格好良いと見惚れていると、男性は晴斗の方に悠然と歩いて近付いた。そうして、ゆっくりと晴斗の耳元で囁いた。
「俺は高いぞ」
色気のある大人の低音に、晴斗の耳が真っ赤に染まり身体に熱が篭る。その男性の声に誘われるように、晴斗は熱っぽい視線で見上げると、頷いていた。
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