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その場に一人取り残された晴斗は、呆気に取られてしまっていたが、渡してくれた名刺を改めて見つめる。男性の名前は「睦月愁(むつきしゅう)」と書かれていた。
「…………愁、さん」
ぽつりと、晴斗は男性の名前を呟いた。愁は、金さえあれば、また会ってくれるのだと考えた晴斗は、その事実に気付いてしまい、じわじわと身体が熱くなるのを感じる。まさか、名前を教えてくれるとは思わなかった。「また来い」と「待っている」とも言われるとは、思わなかった。晴斗にとって、愁と過ごす最後の夜にはならなかった。
「愁さん」
また会いたい。晴斗は嬉しさに震えて、そう強く思ってしまうのだった。
睦月愁の存在に囚われた在原晴斗は、彼から離れられそうになかった。
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