4話

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(あれは……、影島くん?)  ふと、大きい窓の外を見ると一人の青年が、街中を歩いている姿を見かけた。さらさらとした黒色の髪に、緋色の瞳。モノクロに統一された服装を格好良く着こなしていた。格好良いと言うよりは、綺麗と言った印象を抱かせる顔立ちをしている青年の名を、影島富之(かげしまふゆき)と言った。晴斗と同じ大学に通う大学生だ。晴斗自身は、富之と一回も話した事は無い。大学で所属しているサークルの先輩達が、こぞって噂しているのを聞いていたくらいだ。  富之は常に落ち着いていて、冷静な性格をしている。あまり大学内で友達といる所を見た事が無く、いつも一人でいたのを思い出す。また富之は容姿端麗な事から、同じ大学の女子達から、よく好意を持たれているそうだ。女子達にバレンタインデーの時に渡されたチョコは、二桁いくとか、いかないとかと聞いた。晴斗は義理チョコとしてサークルの先輩から渡されたくらいで、渡されたチョコの数に天と地の差に、目を見開いたほどだった。 (あれだけ女子にモテるなら、彼女がいるのかもしれない)  きっと、富之は異性の誰かと普通に恋人を作り、普通に付き合って、普通に恋愛しているのだろうと思うと、少しだけ羨ましく見えた。対して晴斗は、異性よりも同性が好きで、さらに同性に自分の事を「女の様に抱いてほしい」と願っている。晴斗を抱いてくれる同性の恋人を作れるかと聞かれれば、答えはいいえで首を横に振るしかなかった。それでも、今はこの状況でも良いと晴斗は思った。金を払えば抱いてくれる人がいるのだから。 「在原くん、掃除が終わったら猫スタッフの面倒を見てほしい」 「はい、分かりました店長!」  店長に名前を呼ばれて、慌てて晴斗は返事をすると猫スタッフ達の元へ近付いては、様子を見るのだった。バイトで金を稼ぎながら大学に通い、金曜日の夜が訪れたら、また『ナイトムーン』へ足を運ぼうと晴斗は考えるのだった。
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