1話

3/6
161人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
 店内に入ってみると、様々な種類のお酒の香りが漂ってきて、雰囲気に酔いしれそうになる。柔らかい光が差し込む照明で、店内は明るく照らされていた。辺りをきょろきょろと見回してみると、カウンター席とテーブル席があり、様々な職業を思わせる人たちが座っているが、共通して全員が男性である事が窺えた。棚には、晴斗の見た事も聞いた事も無い酒の瓶が置かれ、彩り豊かに目に映る。またピアノも置かれていて、店の店員が綺麗なスーツを身に纏いながら、優雅な演奏をしていた。晴斗の知らない曲だが、ジャズ調の曲調は店内に似合っていて、心地よく感じさせた。 「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」  晴斗が店内のお洒落な雰囲気に圧倒されていると、カウンター席からグラスを磨いているマスターに声を掛けられる。晴斗はぺこりと会釈をしながら、あたふたして空いている奥のテーブル席に座り込んだ。しばらくすると、店員の青年がグラスに冷たい水を注ぐと、晴斗の座っているテーブルの上に、ことりと置いた。ちらりと店員の青年を晴斗は見た。茶髪の髪を一つに結った、翡翠色の瞳。黒を基調としたバーテンダーの服装を、綺麗に着こなしていた。顔立ちは格好良いというよりは、かわいいと言った印象を抱かせる童顔だった。晴斗は、自分よりは少し年上なのだろうかと考えていると、店員の青年が声を掛けた。 「やぁ、こんばんは。このお店には、初めて来た人だね。見ない顔だもの」 「はい、初めて来ました」 「俺は月村洋平(つきむらようへい)って言うんだ、よろしくね」 「在原晴斗と言います、よろしくお願いします」
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!